生成AIを業務で活用するためには、それまでは人が行っていたさまざまなタスクを生成AIができるようになる必要があります。社内データや業務に特化した専門的な知識を理解していることや、その業務特有の判断を行ったりできるようになることが必要です。
ChatGPTやGeminiなど既存の生成AIは、それ自体がとても賢く、高い精度で回答を出してくれます。しかし、日々の業務をサポートさせたり、代りにやらせたりするためには、「回答の精度の低さ」や「指示の手間」が課題になってきます。
その課題を解決するには、生成AIをカスタマイズする必要が出てきます。
このコラムでは、生成AIをカスタマイズして使うための基礎であり、またもっとも重要な方法であるプロンプトエンジニアリングについて解説します。

生成AIをカスタマイズする3つの方法
「プロンプトエンジニアリング」、「RAG(検索拡張生成)」、「ファインチューニング」の違い
生成AIを仕事に使うためには、業種や職種に合わせた知識の生成など、最適なアウトプットを引き出すこと、つまり生成AIをカスタマイズすることが必要です。カスタマイズ方法には、「プロンプトエンジニアリング」、「RAG(検索拡張生成)」、「ファインチューニング」の3つがあります。
プロンプトエンジニアリング
生成AIの指示文(プロンプト)を工夫することで、期待する出力を得る手法。指示と知識などを組み込んで生成AIを制御します。
RAG(検索拡張生成)
ユーザーの質問に関係する外部データを検索し、その検索結果とユーザー質問の両方を生成AIに与えて、回答を得る手法。
ファインチューニング
生成AIに特定の分野のデータを追加学習させ、知識や言い回し、判断傾向を恒常的に変える手法。
プロンプトエンジニアリング | RAG | ファインチューニング | |
|---|---|---|---|
カスタマイズ内容 | プロンプトに含めた指示・知識によるカスタマイズ | 外部データと接続することによる知識のカスタマイズ | 知識に加え言い回しや判断傾向など高度なカスタマイズ |
応答の質 | プロンプトの書き方に依存 | 検索の質に依存 | 学習用データの質と量に依存 |
知識の更新 | リアルタイム(プロンプト変更で即座) | リアルタイム(データソース更新で対応) | 遅い(再学習が必要) |
応答スタイル | 調整可能だが限界あり | 主に知識のみ、スタイルは基本モデル依存 | 高度にカスタマイズ可能 |
実装コスト | 低(すぐに開始可能) | 中(検索システムの構築が必要) | 高(データ準備、計算資源、専門知識が必要) |
維持管理 | 容易(プロンプト修正のみ) | 中(データベース更新が必要) | 困難(再学習が必要) |
「プロンプトエンジニアリング」、「RAG(検索拡張生成)」、「ファインチューニング」の使い分けの基準
プロンプトエンジニアリングはこれら3つの基本で、RAGやファインチューニングを行う上でも必要な手法です。
それを前提とした上で、この3つを使い分ける基準は次のようになります。
使い分けの基準
| 指示や例示で十分な回答が得られる。また、最小限の投資で生成AIの活用方法を試したい。 → プロンプトエンジニアリング |
| 生成AIが学習していない大量の専門的知識を基に回答させたい。 → RAG |
| 知識だけでなく言い回しや判断なども含めて特定の専門分野に最適化した回答をさせたい。 → ファインチューニング |
実際にはこれらを組み合わせて使われることもあります。
組み合わせ活用例
| RAG + プロンプトエンジニアリング: プロンプト設計を工夫することで、RAGによる検索結果を効果的に活用 |
| RAG + ファインチューニング: 外部知識をRAGで検索することで最新情報も参照できるようにする。さらに検索結果を読み解いて、専門家のように回答する能力をファインチューニングで実現する。 |
| ファインチューニング + プロンプトエンジニアリング: 特化モデルに対して、さらに細かい指示を与える |
このコラムでは、「プロンプト」に焦点を当てて、プロンプトの書き方のコツを解説します。
AIが「思い通りに答えてくれない」という悩み
業務で生成AIを本格的に使い始めると、最初に悩まされるのはハルシネーションの問題です。存在しない情報や事実と異なる情報、プログラミングのコードなどでの単純な誤り、翻訳時の一部文章の勝手な削除など、出力される情報の誤りがほぼ確実に発生するといっても差し支えないでしょう。
また、情報が合っていたとしても、質問者の意図と違う方向の答えが返ってきてしまい、解決につながらないという状況にもたびたび直面します。何度質問しても解決につながらず、イライラすることになります。
これら、生成AI活用の失敗は、プロンプトの工夫によって大幅に下げることができます。
人と生成AIの対話の流れ
流れの全体像
プロンプトの解説を始める前に、人と生成AIの対話のプロセスを見ていきましょう。
生成AIとの対話は、「入力→処理(AI)→出力」という流れで行われます。
1. 入力
生成AIとの対話では、「質問」や「指示」は会話を始めるために欠かせないものですが、それらは「入力」として十分ではありません。
質問や指示で十分ということは少なく、多くの場合は、素材を渡して、前提を伝えることが必要になります。「入力」とは、生成AIというプログラムに「データ処理の仕事をさせるために与える仕様書」を渡すことという感覚を持つことが重要です。
2. 処理(AI)
確率による”次に来る言葉”当てゲーム
AIは、与えられた文脈に基づき、次に来る単語を予測します。次の単語の予測という仕組みを使ってデータを学習することで、生成AIはさまざまなタスクに対応できるのです。
生成AIが”単語予測”という仕組みで動いていることは、生成AIが質問の内容に”引っ張られた”回答をする傾向が強いことからも実感できます。2025年の大阪万博の開幕前に、大阪府の生成AIを使ったチャットボットが、「万博が中止になってしもた」などとウソの回答して話題になったことがありました。これは、中止になったことを示唆するウソ(ひっかけ)の質問に引きずられた回答だったと言えます。
言われたことは忠実に守ろうとする
生成AIは言われたことは忠実に守ろうとします。そのため、指示があいまいだったり、回答するための情報に不足があったりすると、言葉を紡ぐために、勝手に条件などを補完してしまうことがあります。その場合、ウソが混じったり、期待していた内容とずれた回答が返ってきます。
3. 出力
執筆者の文責が明記された本やWebサイトのコンテンツは、執筆者を信じるという前提に立てば、それらの内容は「正しいもの」と考えることができます。
一方で生成AIの出力は、AIが確率的に計算した結果です。そのため、「間違いが含まれていること」を前提として受け取る必要があります。
人が内容を確認し、事実チェックを行ったり、自分で調整したりすることで、初めて使える成果物になります。
プロセスを意識してプロンプトを作ろう
この生成AIの情報の処理のプロセスを意識することで、「プロンプトをどのように書けばよいか」を考えやすくなります。特に次の2点を意識しましょう。
ポイント① 「出力」から逆算してプロンプトを考える
質問する分野について自分が初心者で、知識がない場合を考えてみましょう。「出力」がその分野のエキスパート向けの内容であったら、その回答を理解するのは難しいでしょう。そのような場合には、「初心者向けの回答を出力させるにはどうしたらよいか」を考えてプロンプトを設計します。
ポイント② 「教えてもらう」ではなく「処理させる」ことを重視する
入力者の指示に従って回答を返す仕組みです。生成AIは膨大な知識を持っていますが、入力者が受け身の姿勢で、AIに何かを教えてもらおうとしても、適切な回答を得られないことが多くあります。人が能動的に、生成AIに情報を処理させることを意識しましょう。
期待を超える回答を引き出すためのプロンプトの要素と書き方
次に具体的なプロンプトの書き方を解説します。
プロンプトを構成する4つの要素
プロンプトを書く時には、①入力、②文脈、③指示、④出力の4項目に分けて記述することを意識しましょう。
入力
- 生成AIが処理するための素材です。
- 例えば、翻訳作業では、翻訳してほしい元の文章が「入力情報」に当たる
文脈(背景・目的・範囲・役割)
- AIに「役割」と「制約」を与えるものです。
- 検討の背景や現在の状況の説明
- 検討理由・目的(なぜ・何をやりたいか)
- 検討範囲・詳細情報(5W1H)
- 生成AIの役割
指示
- 生成AIに対して、「~してください」という動作の指示です。
- あいまいな書き方ではなく、明確に「動詞」で伝える
出力
- 受け取りたい「形」を指定します。
- 出力形式
- 回答サンプル
プロンプトの記法
プロンプトの文章の構造をAIに分かりやすく示すことで、回答の精度を上げることができます。生成AIに文章構造が伝わればどんな書き方でも問題ありません。ただし、生成AIとのやりとりでの誤解を減らすために、プログラムの仕様書などで使われる「マークダウン記法」を使うことをお勧めします。マークダウン記法のルールは次の通りです。
見出し
- # を見出しの前に付けます。#の数は見出しのレベルを表します。
- # 見出しレベル1
- ## 見出しレベル2
- ### 見出しレベル3
区切り記号
- 引用の始めと終わりを示したい場合など、区切りを明確にしたい場合には、区切り記号を使います。“-”を3つ並べます。
- —
プロンプト例
当社が推奨するプロンプトの書き方を実際に当てはめると、次の例のようになります。
プロンプト例
# 入力
集客用コンテンツ記事のタイトル例:
仕事の効果が断然上がる、便利で快適なワイヤレスイヤホンの選び方まとめ
# 文脈
## 役割
あなたは最高のコピーライターです。
## 企画概要
・ワイヤレスイヤホンの拡販のため、自社サイトへの集客のための「お役立ち記事」を作成します。
・当記事では直接的にワイヤレスイヤホンの宣伝は行いません。
・ビジネスシーンにあったワイヤレスイヤホンの選び方を解説する内容です。
# 指示
・SEO効果の高い記事のタイトルとはどのようなものかを説明してください。
・その観点から、企画概要を踏まえて、「入力」で示した例を10点満点で採点してください。
・その採点を基に、改善案を10個作成してください。
# 出力
上記指示の1つ目と3つ目の回答は箇条書きしてください。
注意点
入力情報、文脈、指示、出力形式は、それぞれ関係しあっているため、「この情報は文脈なのか、出力形式なのか」といったように悩むこともあります。例えば、回答例を与えることは出力形式の指定でもあり、文脈を伝えることでもあります。
従って、プロンプトの文章をどのように構成するかについて、あまり神経質になる必要はありません。入力情報、文脈、指示、出力形式という4項目は、プロンプトに大きな抜け漏れがないかを確認するためのチェックリストとして使いましょう。
さらに精度を上げるためのテクニック
プロンプトの4要素と記法を意識することで、生成AIの回答精度を大きく高めることができますが、更に精度を上げるためのテクニックもあります。ここではテクニックのいくつかを紹介します。
プロンプト全般
- 簡潔に書くようにしましょう。プロンプトが長くなると、冗長・矛盾を含む可能性もあり、AIが混乱する原因にもなります。
「入力」のテクニック
- 参考として回答例を付けることで、回答精度が上がります。例の数は少なくてもよいですし、仮説でもよいので、可能な限り付けるようにしましょう。
- プロンプト内で書いても、添付ファイルとして与えても、どちらでも大丈夫です。
- 抽出・要約・フラグ付けなど作業を指示する場合には、入力データも構造化されているもの(内容が整理・分類されている状態)の方が出力精度が高まります。
「文脈」のテクニック
- 文脈を指定しなくても、それなりの回答を得ることができますが、「本当に欲しいアウトプット」を出させるためには、文脈の指定が大切です。
- 特に、「指示」の大前提として自分が何をしたいのかという要望を指定すること、検討して欲しい範囲を明確に指定することが有効です。
「指示」のテクニック
- 指示では、段階を踏んで考えさせたり、”抽象(概念)”から”具体”の順で説明させたりすると、良い回答を引き出しやすくなります。
- 回答の範囲をあえて狭めることで、細かい回答を引き出すことができます。そのために、作業やプロジェクトを段階に分けて、「今回は第一段階だけ回答してください」などのように指定します。
- 否定形は避けたほうが精度が上がります。
「出力」のテクニック
- 回答形式として、「経験豊富な専門家と、知識欲旺盛な素人の両方の役割を演じさせる」と、事前知識が無くても理解しやすい回答が得られやすくなります。
複数の生成AIを使う
- 生成AIは確率を基に次に来る単語を予測して生成するため、「正しい」答えを知っているわけではありません。このため、回答に誤りが含まれることがありますし、回答にバラつきも出てきます。
- 例えばソフトウェア開発で生成AIに仕様を与えてコードを出してもらうような「答えが決まっていそう」な使い方でも、出てくる答えが一つとは限りません。
- この生成AIの性質を考慮し、ChatGPT、Gemini、Claudeなど異なる生成AIサービス、あるいは生成AIモデルを使い、それぞれの答えを比較してそれらの回答の中から良いものを選ぶことも有益です。
”4要素”の指定で、生成AIを思いのままに使いこなそう
生成AIの回答の精度は、聞き方の工夫で驚くほど改善することができます。プロンプトで、入力、文脈、指示、出力の4要素を指定して、生成AIから「欲しい回答」を引き出しましょう。
「業務での生成AI活用コラム」シリーズ
| ・ 生成AIはどんな業務に効く? 効果を最大化する「領域」と「方法」の選び方 |
| ・ 失敗しない生成AI導入のロードマップ。業務を変革する「仕組み」の作り方 |
| → 欲しい回答を引き出すプロンプトの書き方。「質問」ではなく、「仕様」を伝えよう |
| ・ マーケ業務を劇的に効率化!コピペで使えるペルソナ・メール作成プロンプト実例集 |
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執筆者
江成 太一
(えなり たいいつ)
ソニー、日産自動車、MSDなどで、一貫してデジタルマーケティングに従事。
戦略立案から、企業Webサイト構築、SEO・検索広告・メールマーケティングなどのリード創出施策、インサイドセールス運営を実行。海外駐在も経験。
出典
- Prompt Engineering Guide
- Microsoft Prompt basics
- 上田雄登. 60分でわかる! 生成AI ビジネス活用最前線. 技術評論社
- 城田真琴. ChatGPT資本主義. 東洋経済新報社, 2023
- にゃんた. ゼロからわかるDifyの教科書. 技術評論社