デジタルマーケティング設計のプロフェッショナル


AIツールの効果を見える化! マーケティングKPI設計の実践ガイド


AIチャットボット、画像生成など、マーケティング業務でAIを活用する機会が増えています。しかし導入したものの、どのように成果を測ればよいかと悩む担当者も多いのではないでしょうか。
この記事では、AIツールの効果を正確に測定するためのKPI設定の基本と、AI活用ならではの注意点を解説します。

この記事で分かること

  • KGI→KSF→KPIをつないでKPIを作成する方法
  • AI特有のAI特有の効果とリスクを測るKPI
  • チャットボットなどツール別KPIの具体例

KPIとは?

KPIの定義

KPIとは、マーケティング施策を成功させるためのカギとなる数値目標です。

KPIの位置づけ

マーケティング活動とは、「商品やサービスを売れるようにすること」です。そして商品やサービスを売ることとは、事業活動そのものとも言えます。

KPIを理解する上で、次の3つの要素とその関係を理解することが重要です。

3要素

KGI事業の目標など、ビジネスの成果に直結する数値目標がKGI(Key Goal Indicator)です。
KFS事業目標であるKGIを達成するためのプロセスや要因となるのが、KFS (Key Factor for Success)です。海外ではKFSではなく、CSF (Critical Success Factor)と呼ばれます。
KPIKGIを達成するためのKFSの達成度合いを測る数値指標がKPI(Key Performance Indicator)です。
KPIの定義
KGI、KFS、KPIの関係

KPIの作り方

ステップの全体像

KPIの作成は5つのステップで進めます。

KGIの確認

KGIの確認は、ビジネスの成果に直結する目標を次の観点で確認していくと効果的です。

  • 公開されている事業目標・戦略
    • 企業の統合報告書など公開されている資料で売上目標や基本戦略などが説明されていることが多いので、再確認の意味でも確認しましょう。
  • ビジネスの目的
    • マーケティング施策を実施する対象の商品・サービスについて、そのビジネス目的を確認します。お客様にどんな価値を提供するのか、自社独自の差別化ポイントは何かを明確にします。
  • ステークホルダー、商流
    • 自社が最終購入者に販売している場合はシンプルですが、代理店や小売りを通じて販売しているなど、複数のステークホルダーが関わっているケースも多くあります。マーケティング施策に関して、誰が、どんな意図をもって関連しているかを整理します。
  • 施策の目的
    • 誰に、何を、どのように伝えるのか、対象者にどうなって欲しいのか、という観点で施策の目的を確認します。該当のマーケティング施策だけでなく、さまざまな要素の組み合わせで目的を実現していく場合が多いですが、あくまでも施策の目的に注目することが重要です。「その施策がなかったらどうなるか?」を考えると、施策を行う価値を明確にできます。
  • 数値化
    • これらの確認を踏まえて、KGIを数値として明確にします。その上で関係者と認識が合っているかを確認します。

KFSの検討

マーケティング活動でKGIを達成するためには、対象者に「企業が望む状態」になってもらう必要があります。
ブランド名を知ってもらう、商品に興味を持ってもらう、小売店に言ってもらう、ECサイトで購入してもらうなど、考えや行動に変化が起きることが重要です。
対象者(お客様)の行動をプロセスとして整理します。カスタマージャーニーとよばれるお客様の購買行動のマップを作成して、お客様の課題や要望を明確にします。
その上で、KGIを達成するための重要なプロセスを絞り込みます。

KPIの決定

KFSが決まったら、それを数値で測れるKPIの項目に落とし込みます。例えば、「お客様の購買意欲を高める」というKFSに対しては、「ランディングページのクリック率」や「ホワイトペーパーのダウンロード数」などがKPIとなります。

目標設定

次にKPIの数値目標を決めます。
例えばBtoB企業のインサイドセールスチームがお客様とのアポイントを獲得する活動の場合には、活動のプロセスと目標の算出方法は次のようになります。

  • プロセス
    • 対象者の決定 → 架電 → アポ → 営業による商談化 → 営業による受注
  • インサイドセールスきっかけの売上の算出式
    • インサイドセールスきっかけの売上 = アポ獲得数×商談化率×受注率×商材単価
  • アポ獲得数の算出式
    • アポ獲得数 = インサイドセールスきっかけの売上 ÷(商談化率×受注率×商材単価)
  • アポ獲得数の試算
    • 条件
      • KGI: インサイドセールスきっかけの売上1億円
      • 商材単価: 100万円
      • アポ→商談率:20%
      • 商談→受注率:20%
    • アポ獲得数
      • 1億円 ÷(20%×20%×100万円)=2,500件

運用

KPIを測定して、その結果をもとに、KFSのプロセスやリソース配分を見直します。

KPI検討でのポイント

KPIの検討を進めると、理屈通りにはいかず、悩むことも出てくると思います。そんな時には次の点に注意しましょう。

アクションできるKPIを決める

「このレポートを使って、誰が、どんなアクションを取るのか」を先に明確に、また具体的に決めておきます。こうすることで「絵に描いた餅」に終わらない、実用的なKPIを作成できます。

目標を決めてから運用を始める

初めての活動の場合、目標設定は難しいものです。そのため、目標を設定しないで始めて、その後指標を決めてもよいと考えがちです。しかしそれでは施策が良かったか・悪かったかを評価できません。データがそろわなければ仮説をもとにして、目標数値を決めてから始めましょう。

項目を絞る

KPIの数値をもとにアクションを取るためには、注目する数値を絞った方が有利です。特に注力するKPIを、1~3個選定しましょう。

成果指標優先

「やったかどうか」を測る指標が行動指標、「できたかどうか」を測る指標が成果指標です。
KPIは、「KGIを達成するためのプロセス」を測るものなので、本来は行動指標でも成果指標でも問題ありません。
ただしデジタルマーケティングは、ほぼすべての活動で成果を測定できます。成果指標は、行動指標よりも状況を客観的に測ることができるので、成果指標の方がベターです。

わかりやすさ

問題や対策をイメージしやすい指標であることも重要です。

例えばメールマーケティングを始めたばかりの段階では、メールを受け取るお客様も該当企業からの販促メールに慣れておらず、企業の担当者も書き方などを試行錯誤することも出てきます。その場合には、配信を拒否するお客様の割合(オプトアウト率)を設定すると、メールの内容や配信タイミングなど初期の課題を明確にできます。

AIツールの効果を測定するためのKPI設定の注意点

”AIの効果”に目が向きがちだからこそ、KPI設定の基本に立ち戻ろう

AIの導入に関わらず、もともとある施策の目的に対して、AIの導入によって効果を高められるか?を確認できることがまず重要です。
例えば、顧客とのエンゲージメントの強化が本来の目的の場合、AIを導入することでマイナスの効果があるようでは本末転倒です。
KPIの検討に当たり、AIツールであることは一度わきに置いて、施策本来の目的から検討を始めましょう。

“AIの効果”を正確に測るための指標は何か?

AIには大量のコンテンツの生成や分析など、得意な分野があります。AIの導入効果を見極めるために、AIの強みが生かせているかを確認できるKPI項目を選定します。

AI独特のリスク

現状でのAI活用は、将来に向けてのDX化の実験の意味もあります。したがって、ある程度リスクがあることが前提で始めることが多いでしょう。将来DX化をさらに進めるためには、AI活用のリスクを測定することも重要になります。例えば、生成AIによる回答の精度目標を決め、それを達成できているかのモニタリングなども有効です。

AIツールのKPI作成事例:AIチャットボットの場合

KPI検討の基本を踏まえて、AIツールを導入する場合のKPI検討についてご紹介します。
AIチャットボットの運用を想定して、どんなKPIを設定したらよいか考えていきましょう。

ステップ① チャットボットの目的を測るためのKPI

AIを使うかどうかに関わらず、チャットボットの目的からKPIを検討します。基本のステップに沿って、KGIの確認から行いましょう。
例えばセミナーなどのイベントの申し込みの対応用のチャットボットの場合、KPIの候補として次の項目が挙げられます。

  • 顧客満足度
    • チャットの対応に顧客が満足した度合い(例:アンケートでの評価平均点)
  • 会話成功率(Conversation Success Rate)
    • ユーザーの要求を正確に理解し、満足できる回答を提供できる割合
    • ユーザーの目標達成を確認できた会話数÷総会話数

ステップ② AI独自の効果を測るためのKPI

AIを利用するからこそ期待できる効果は何かを検討します。

  • オペレーター転送阻止率(Deflection Rate)
    • AIチャットボットだけで解決し、人間オペレーターにエスカレーションしなかった比率。
    • チャットボットで完結した問い合わせ数÷総問い合わせ数

ステップ①の「会話成功率」は、AIの効果を測る上でも有効です。

ステップ③ AI独自のリスクを測るためのKPI

AIチャットボットの最大のリスクは、「もっともらしいウソをつく」(ハルシネーション)リスクでしょう。また、そもそも回答できていたか、応答速度の遅さも課題になるかもしれません。
従って、KPIとしては次の項目を検討するとよいでしょう。

  • 虚偽回答率
    • AIが事実に反する回答をした割合。定期的な回答のファクトチェックを行い、虚偽回答数を測定。
    • 虚偽・誤情報回答数÷総回答数
  • 失敗率(無回答率)
    • AIチャットがユーザー質問に適切に答えられなかった(放棄・人間対応に切り替えた)割合。
    • シナリオ改善・AI訓練指標
  • 応答速度(Response Speed)
    • 反応速度

AIチャットボットのKPI一覧

以上をまとめると、AIチャットボットのKPI例は次のようになります。

AIチャットボットのKPI

顧客満足度チャットの対応に顧客が満足した度合い(例:アンケートでの評価平均点)
会話成功率ユーザーの要求を正確に理解し、満足できる回答を提供できる割合。
ユーザーの目標達成を確認できた会話数÷総会話数
オペレーター転送阻止率AIチャットボットだけで解決し、人間オペレーターにエスカレーションしなかった比率。
チャットボットで完結した問い合わせ数÷総問い合わせ数
失敗率(無回答率)AIチャットがユーザー質問に適切に答えられなかった(放棄・人間対応に切り替えた)割合。
シナリオ改善・AI訓練指標
虚偽・誤情報回答率AIが事実に反する回答をした割合。定期的な回答のファクトチェックを行い、虚偽回答数を測定。
虚偽・誤情報回答数÷総回答数
応答速度反応速度

AIツールのKPI例

自社で利用しているAIツールを測定するために、KPIを検討してみましょう。下記は、SNS用コンテンツ生成と広告分析用のAIツールでのKPI設定例です。

SNSコンテンツ生成のKPI

エンゲージメント率いいね・コメント・シェアの合計÷表示回数
クリック率(CTR)SNSを見た人のうち、どれだけの人がクリックしたか
採用率生成コンテンツのうち実際に公開された割合

広告分析のKPI

Return on Ad Spend (ROAS)広告に使ったお金がどれだけ売上を生んだか
広告から得られた売上額÷広告費
顧客獲得コストお客様を1人獲得するのにかかる費用
広告費÷新規顧客獲得数
クリック率広告を見た人のうち、どれだけの人がクリックしたか
クリック数÷広告表示回数(インプレッション数)
ブランド不一致率AI生成広告がブランドガイドラインや企業イメージと合致しない割合
ブランドガイドライン不一致と判定された広告数÷チェックした広告総数
誤情報含有率広告文中に誤解を招く表現や誇大広告が含まれる割合。
誤情報・誇大広告の件数÷チェックした広告総数

先ほどご紹介した次の3つの観点で、自社にあったKPIの設定をしましょう。

カスタマーワンのKPI設計支援

カスタマーワンでは、マーケティングKPI設計をご支援しています。貴社のビジネスに貢献する、実践的なKPIの設計と運営をご支援します。

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執筆者

江成 太一

えなり たいいつ)

ソニー、日産自動車、MSDなどで、一貫してデジタルマーケティングに従事。
戦略立案から、企業Webサイト構築、SEO・検索広告・メールマーケティングなどのリード創出施策、インサイドセールス運営を実行。海外駐在も経験。

出典

  • 中尾隆一郎. 最高の結果を出すKPIマネジメント. フォレスト出版, 2018
  • 太田 真人他. 現場で活用するためのAIエージェント実践入門. 講談社, 2025


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